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  • 2008.10.16 Thursday
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§2「冬のソナタ」殺人事件(本編:1)

  
                            江戸川心歩 作
◇弘崎大学寮生
長岡光夫 2年生 天才探偵 純情 京都生まれ 
三上美里 2年生 光夫のガールフレンド 青森生まれ

野村誠  4年生 フランス製のめがねが似合う、色白ハンサム 
野村えり(美人) 父親 野村警部 野村誠の妹・美里の友達
美里の友達 2年生 平井ルリ子 同 白石夕実
光夫の友達 2年生 坂下・原口

若山君 2年生 下宿生 美里の幼なじみ 大学一の美男子

鳥越院長 大病院の医師 鳥越夫人 長男 秀一
内田医師 鳥越医院の勤務医

浜田 薬品プロパー
佳奈美お姉さん ルリ子の従姉妹


連載第一回

    第1楽章 

 11月。早朝。青森県弘前市。雪が積もって、ほとんどの女子寮生たちは、マフラ
ーを首に巻いて、急ぎ足で大学に向かっている。学寮から大学までの通学道の周りに
は、りんご畑がのどかに広がり、遠くには雪を被った「津軽富士・岩木山」が、冬晴
れの青空に、美しくそびえている。

「美里、もっと早く起きなきゃだめでしょ」
「ごめんね・・」
「一時間目が英語だといつもこれなんだから、バカネ、なかなか起きないんだから」
とルリ
「ア〜ア自転車だとすぐなんだけどな・・歩くのめんどうくさいよね」と夕実
「つるんつるんよ、アイスバーンだもの」
「アハハハ・・先輩、転んだ!!」と美里

「先輩、意地悪だから、イエス様の罰よ」
 ロザリオを下げているルリ子は、キリスト教だ。

 後ろから男子寮生たち4人が自転車で・・その中の一台が美里の前に止まった。
「長岡(光夫)、おはよう!!」(美里)
「光夫ちゃん、おはよう」(ルリ・夕実)
「フフ・・三上(美里)、乗るか?」
「駄目、危ないでしょ、光夫ちゃん」とルリ
「ううん・・・」(美里)
「どうするんや?」
「やっぱり歩いていく。怖いから」
「大丈夫やって」
 
 先の方を走って行った、光夫の同級生の乗った自転車が、思い切りズデーンと転が
った。光夫が心配して、自転車に乗って追いかけて走ると、自分までズデーンと転ん
でしまった。アイスバーンだから、打った腰が、かなり痛いのだが・・自分が一言で
も、「痛い」と言えば、美里は泣き出すに決まっている。光夫は、ぐっと奥歯をかみ
しめた。

 ルリと夕実は大笑い。美里は急いで、光夫の側に走っていった。
「長岡(光夫)、大丈夫?」
「・・・ああ・・・」
 光夫は、やっと起き上がって、自転車を起こしている。
「ね、歩いて行こうよ」
「そうやね」
 光夫は自転車を引いたまま、よろよろと美里と歩き始めた。

 ルリと夕実が笑ったまま、側に来た。
「光夫ちゃん、大丈夫?痛かったでしょ」
「・・いや、大丈夫や」

 美里は笑っている二人を、きっとにらみつけた。
津軽美人(美人だが少々ダサイ)のルリは、クスクス笑いながら歩いている。たれ目
の夕実は、虫歯の口を開けて、ころころと笑う。

「・・長岡、痛いんでしょ?」
「俺は大丈夫やって・・坂下、大丈夫かな」
 先に転んだ光夫の友達も、他の女生徒たちから笑われているのに気が付いて、3人
で自転車を引きながら、歩き始めた。今朝は幸い雪は降っていない。
「長岡・・ね・・痛い?」
「大丈夫や・・俺より危ないのは、三上の英語やろ。ちゃんと予習したんか?」
「・・・・」(美里)

「夕べ何してたんや?」
「勉強はしたよ。心理学と数学。長岡もやってたよね、数学。」
「ああ、数学の後は?」
「本読んでた。『ラーマーヤナ』」
「それ、面白いやろ」
「うん!」
「本読むの、少し減らして、ちゃんと英語やらないと、留年するぞ」と光夫
「私、若く見えるから・・」
「バカ!何言ってるんや!」
 
 後ろから、自動車通学の学生の車が通り過ぎた。助手席に、美人の女の子を乗せて
いる。
「・・・いいなあ・・」と夕実
「でも、危ないわよ。医学部の男子って、怖いから」とルリ

「医学部やなくても、知らない男生徒の車には乗らないほうがいいよ」と光夫
「・・長岡、大丈夫・・・」
 美里は、長岡の心配ばかりしている。
「美里、お嫁さんみたいね、フフフ・・」とルリ
 
 二人は、少し赤くなった。校門の前に着くと、車の中から美里たちと同じ2年の野
村えりが、華やかに笑って、兄が運転する車の助手席から降りてきた。この兄妹も同
じ学寮に住んでいる。美里とは同じ高校で同級生だ。兄妹揃って、スマートな美男美
女だ。
 
「弘崎大学教養学部」4人の女の子たちは、農学部の2年生。長岡たち男子は理学
部数学科2年。数学科は学内でトップクラスの天才集団で、女の子と話をする習慣は
無いのだが・・光夫だけは気さくで愛嬌がいい。美里は体が小さく童顔で、不二家の
店先のペコちゃん人形にメガネをかけた顔だ・・女子寮1のおてんばなので、彼らに
言わせると、まだお子様扱いだ。皆、女子寮と男子寮のメンバーで、建物は男女別々
だが、食堂でつながっている。どちらの寮も5階建てで、男女それぞれ、220名、
総勢440名の寮生たちが、仲良く生活している。寮の個室は全て二人部屋だ。

・・・4ヶ月前の7月
 美里は携帯電話が鳴って、どきりとした。

「もしもし、母さんなんかあったの?」
「あ、姉ちゃん、母さん、今日は、調子がいいって、今、病院。帰るって言ったら、
 姉ちゃんの声聞きたいからって、替るね」

 美里の母親・菊枝は体が弱く、美里が高校生の頃から、入退院を繰り返している。
「美里、夏休み、帰ってくるの?私、もうすぐ退院だから」
「こっちで、バイト半分、勉強半分かな」
「何だ、そうなの」
「お盆には、少しは帰れるから・・」
「父さん、ボーナス出たから、何か足りない物はないの?」
「姉ちゃん、昨日、バッチャ(祖母)、入院したから」
「母さん、いいって、バイト代入るから」
「美里、元気みたいだね、電話代、もったいないから、切るよ。携帯は高くて」
「うん、じゃ・・」
 美里は、ふーっとため息をついた。今夜は暑苦しい夜だ。

 美里の部屋の開いた窓から、見事なピアノの演奏が聴こえてきた。
「あ、『月光』・・わあ・・わあ・・・・」
 美里は、夢中で、5階の部屋から、階段を一気に走って降りた。ピアノの音が、
段々大きく響いてくる・・荘厳な、月の光の波が、ぐいぐいと胸の中に押し寄せてく
る・・・

 そのまま走って、食堂に駆けて行って、ピアノの前の長い木の椅子の隣に、いき
なり座った。黒い長髪で、無精ヒゲのやせた男の生徒が、熱心に弾いている。
 
 曲が終って、美里は大声で
「わあい!!わあい!!」
 拍手をすると、いきなり大声で怒鳴られた!
「バカ!女はバカだから嫌いや!」
 
 その男生徒は、乱暴に、バラバラグチャグチャと、リストの「愛の夢」を弾いた。
・・・ガチャガチャだな・・・ロマン溢れるようにさ・・優しく弾いたらいいのに・・

 弾き終えて、美里の顔を見て、小馬鹿にしたように、フフフ・・と笑っている。
「リストだ。私もピアノ習っていたんだよ。『カンパネラ』も聴きたい!」

 きつい目で鼻の高い、西洋人みたいな顔の男生徒は、急ににっこりして、「そうカ
ア」と、今度は上機嫌で「カンパネラ」を弾いてくれた。美里は、又、大拍手。

「私、これ(月光ソナタの楽譜)練習してるんだけど・・左の指が、痛いの・・」
 男生徒は、美里の小さな手を見て・・

・・・これは・・この娘は、生まれつき手が小さくて、ピアノを弾くのが大好きなの
に、指が届かなくて弾けないんや・・可哀相に・・何か言ってやらなきゃ・・・

 男生徒は、音譜を見ながら指して
「・・指が痛いのはここと、ここやろ」
「うん、うん」
「下の音、外して弾く。和音を1オクターブ縮めるとか、痛かったら、無理に指を伸
ばして弾かないんや」

「・・それはわかってるけど・・だって、駄目でしょ、そんなの」
「楽譜どおりに弾くという決まりはない」
「ええ?」
「音楽って、音を楽しむっていう字やろ。痛い思いをしてまで弾く事はない」
「・・そうなの・・・」

 男生徒は、美里の顔を見て笑って、
「そうや、音楽を楽しむんや!」
「・・・へええ・・・」

「本好きか?」
「うん、大好き!」
「読んでしまった本で面白いのがあるよ。読むか?」
「うん!うん!」
「俺は、長岡光夫。俺の家は京都なんや。214号室や」
「私、三上美里。青森。農学部2年なんだ」
「なんや、フフフ・・俺も2年や」
 
 二人は、意気投合して話し始めた。二人とも、午後の同じ時間に、ラジオのFM放
送で、クラシック音楽を聴いている。女子寮の個室に男生徒は入れないので、午後暇
な時に、美里が長岡の部屋に遊びに行く事になった。

 光夫が笑って行ってしまった途端に、男子寮の生徒がピアノの側に来た。
「あれ、長岡って、凄いんだ! 数学科でさあ、上級生より凄い出来るんだ!」
「・・へええ・・」
 
・ ・・・・・・・・・中略・・・・・・・・・

 部屋に戻ってから、光夫は

・・・ああ、びっくりした。いきなり、俺の隣にどんと座って・・あの娘、恥ずかし
そうな様子がないな、まだ、子供なんやろ。俺、女の子とくっ付いて話をするなんて、
初めてや。女の子って、いい匂いするんやな・・きれいな声やったしい・・・うぐい
すみたいや。

 人一倍、音感のいい光夫は、寮の食堂で、他の男生徒が女の子の顔をながめている
時に、顔よりも、声のいい娘が気になっていた。

 次の日の午後、美里は、光夫の部屋に初めて遊びに行った。女子寮の癖で、部屋の
戸を閉めて入っていくと、光夫が急いで部屋の戸を、大きく開けた。うれしげに、少
しはにかんで、
「女の子が来たら、部屋の戸を開けておくのが、男子寮の決まりなんや」
と教えてくれた。

・・・ここなら、安全だ!この人は私を大切にしてくれている・・・
 美里はうれしくなった。

 それから、一週間に一度位、明るい時間に美里は光夫の部屋で、3時間ほど、一緒
にFM放送を聴いて過している。光夫がいない時も、自分の部屋のように、光夫と同
室の農学部の先輩に本を借りたり・・光夫の3人の同級生たちと音楽を聴いて、のん
びりとくつろいでいた。
 

 質実剛健、バンカラな光夫は、汚くて、殺風景な部屋だ。本は腐るほど積んである。
光夫は部屋で茶も酒も飲まずに勉強している。光夫は片付けや掃除は苦手らしい。一
言で言うと、光夫の部屋は「花見後の公園」だ。

 正反対に、美里の部屋は、自分で布を買ってきて縫った、フリルたっぷりの花模様
のベッドカバーが可愛い。赤い薔薇の模様の白いティーカップ、紅茶やコーヒー・ウ
ーロン茶、電気ポット、陶器のディナーベル人形など、バイトで買った愛用品が・・
・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・中略・・・・・・・・・・・・・・・

第2楽章

 時間を冬の朝に戻そう。

 朝、教室に入ると、美里の隣の席に、韓国スター顔負けの、超ハンサムな長身の男
生徒がなれなれしく座った。

「三上、おはよう!」
「ワカ、おはよう!」(美里は大声で)

 通称「弘大の若様」全ての女生徒は、緊張して彼を小声で「若山さん」と呼んでい
るのだが、おてんばの美里だけは平気で呼び捨てだ。
 彼は美里の幼ななじみ・・・・・・・・

  
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